ぼーの の日記

セイバーメトリクスとか

本塁打パークファクタと球場構造

パークファクタ(Park Factor, PF)とは、球場特性が野球の試合に与える影響を定量的に計測し、数値化したものである。単打PF、二塁打PF、本塁打PFなど様々なPF値が存在するが、本記事では球場構造との結びつきが特に強い本塁打PFについて分析を行った。

 

本塁打PFの算出方法】

本塁打PFの算出式は以下の通り。ノイズ低減のため、外野フライあたりの本塁打数をもとにPF値を算出している。当該球場のPF値が1.5であれば、平均的な球場よりも1.5倍本塁打が発生しやすいことを意味する。*1

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【球場構造について】

本塁打に影響する球場構造は主に「ホームからフェンスまでの距離」と「フェンス高さ」の2つである。各球場のこれらの特徴について、Table.1にまとめた。

東京ドームとPayPayドームの各寸法はほぼ同じ値となっており、近い作りとなっていることがわかる。また、他の球場も比較すると似たもの同士がいくつか存在しており、今回筆者の主観が少し入ったグループ分けを行ってみた。

Table.1 各球場の球場構造

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神宮球場は中堅距離、左右間距離、両翼距離、フェンス高さ、すべてが平均を下回っている唯一の球場である。これをクループⅠとした。

グループⅡは左右中間距離が極端に小さいのが特徴である。一方でフェンス高さは平均より高く、バランスを保とうしていることがうかがえる。

グループⅢはZOZOマリンのみが属すグループである。構造的にはグループⅡと近いが、強烈な海風の影響が大きいため、独立したグループに分類した。

グループⅣはフェンス距離が全体的に小さく、フィールド面積は全球場で最小となっている。その一方でフェンス高さはトップクラスであり、グループⅡと同様、バランス調整していることがみてとれる。横浜スタジアムのみがもつ特徴である。

グループⅤは最も平均的な球場である。このなかでも甲子園球場は左右中間が広い独特な形状を有することや浜風の影響が存在するなど少し特徴的な特性を持っている。

グループⅥはいわゆる 「ピッチャーズパーク」と呼ばれる球場である。平均以上のフィールド面積に加え高いフェンスを有しており、最も本塁打がでにくい球場である。

 

【各球場の本塁打PF】

Table.2に2016-2020年における各球場の本塁打PFを示す。同じグループ内のPF値は概ね近い値を示しており、本塁打と球場構造には密接な関係があることを示唆している。

最も高い本塁打PFを示したのは神宮球場(グループⅠ)の1.43であり、最低値を示したグループⅥと2倍程度の本塁打格差みられた。

グループⅡのPF値はグループⅠほどではないものの高い傾向にあり、短い左右中間距離の影響が強く表れていることがわかる。PayPayドームと京セラドームの構造は左右中間距離以外同じであるが、PF値は1.5倍以上の差異がある。なお、ZOZOマリンはグループⅡと近い構造を有するが、海風の影響でPF値は平均レベルに落ち着いている。

楽天生命パーク、メットライフ京セラD、札幌ドームの4球場はフェンス高さ以外の構造が一致している。これら4球場のPF値をフェンス高さでプロットした図をFig.1に示す。フェンス高さが3.2mを超えたところでPF値は落ち込みはじめ、最大で30%減少している。横浜スタジアムは狭いフィールドを有するが、このフェンス効果によりPF値の高騰が抑制されている。

Table.2 各球場の本塁打PF(16-20年)

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Fig.1 フェンス高さと本塁打PF

 次に、Table.2で得られた本塁打PFを左翼方向、中堅方向、右翼方向に分解した結果をTable.3に示す。*2

グループⅡに属するPayPayドーム、東京ドームは両翼のPF値が高く、短い左右中間距離の特徴が顕著に表れている。

甲子園球場は右翼方向のPFが極端に低い特徴的な分布を示した。右翼方向のPF値は0.60であり、これはバンテリンドームよりも低い値である。この要因として甲子園特有の「浜風」 と「深い左右中間」の2つの影響が考えられる。甲子園球場の西側(ライトスタンド側)は大阪湾に面しており、海からの風がライトからレフトに向かって吹くことがある。さらに甲子園の左右中間距離は全球場で最も大きく、これらの影響によりPF値が大きく低下していると思われる。レフト方向は浜風により打球が伸びやすいと言われているが、深い左右中間の影響によりPF値は平均以下にとどまっている。

Table.3 打球方向別 本塁打PF(16-20年)

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続いて打者目線の本塁打PFについて分析を行ってみる。長距離打者と平均的な打者ではフライ性打球の打球分布が異なるため、(特に本塁打において)受けるパークファクタが異なるはずである。 今回、シーズン本塁打20本以上の打者を長距離打者とし、長距離打者のみによる本塁打PFを算出した。結果をTable.4に示す。

長距離打者の本塁打PFは0.75~1.20の間に収まり、球場によるPF値の変動が小さくなっていることがわかる。これは長距離打者が放つ本塁打は球場構造の影響を受けにくいことを示唆している。

特に神宮球場では大きな格差が発生しており、中低距離打者のPF値が1.67に対し、長距離打者は1.16となっている。この数字から「神宮球場で放った本塁打のうち球場の恩恵を受けた本塁打の割合」を推算すると、中低距離打者では約40%であるのに対し、長距離打者はわずか15%程度であった計算となる。2013年バレティンのHRシーズン記録は球場の助けもあったと言われているが、実際にはそれほど恩恵を受けていなかったことが想像される。*3

Table.4 打者別 本塁打PF(16-20年)

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【最後に】

今回の分析を通して本塁打が受ける球場構造(および環境)の影響を定量的に測ることを試み、いくつかの傾向を確認することができた。一方でこれらを説明する物理的な解釈は、データや知識が不足していることもあり、不明な部分が多い。今後トラッキングデータの解析が進み、物理現象論からの裏付けが得られることに期待したい。

*1:詳しくは パークファクターはどのような考え方で算出されるか - 日本プロ野球RCAA&PitchingRunまとめblog を参照ください。

*2:パークファクタは一般に3~5年分のサンプルサイズを必要とされる。今回は5年分のデータを条件別に複数に分割し、PF値の算出等を行っている。一定のノイズが含まれていることに注意されたい。また、今回算出したPF値はリーグ内平均との比較である。異なるリーグのPFを比較する際は注意が必要である。

*3:2013年のバレンティン神宮球場で放ったHR数は38本であるが、このうちの15%が球場の恩恵を受けていたとすると、その数は 38 * 0.15 ≒ 6 本となる。神宮球場の恩恵を差し引いたとしてもバレティンのHR数は記録更新ラインであったといえる。