ぼーの の日記

セイバーメトリクスとか

投球コースとPitch Value [Part.2]

Part.1では投球高さとPitch Value(以下、PV)について紹介した。Part.2では水平方向(左右方向)の投球コースとPVの関係について紹介する。

 

分析方法

Part.1同様、投球マップデータを短冊状に分割し、各領域におけるPitch Value(PV)の計算を行った。

PVの計算はストライクコール、ボールコール、打席結果(単打、二塁打、ゴロアウト…etc.)を集計し、それぞれに得点価値を乗じて合算することにより算出している。PVがプラスに大きいほど、失点抑止が大きいことを示す。投手の打席は計算から除外している。

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Fig.1 ゾーン分割のイメージ

 

ストレート

リーグ全体

Fig.2にストレートの左右の投球コースとPV/100*1の分布を示す。青の曲線は投打の利き手が一致しているとき、赤の曲線は投打の利き手が一致していないときの結果を示している。

ストライクゾーン(以下、ゾーン)内では、どちらも左右対称のきれいなV字型の分布を示しており、「内角と外角の失点抑止力はほぼ同じ」かつ「投打の左右の影響はほとんどない」ことを示唆している。当然、内角は死球のリスクがあるためゾーンを外れるとPV値は大きく落ち込む。

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Fig.2 ストレートの投球コースとPV/100

Table.1にPV/100を投球イベント別に分解した結果を示す。まず、左右一致時をみると、ゾーン外角では高いストライク得点が目立ち、内角では高い凡打得点が目立っている。これは外角では低いスイング率(Fig.3参照)により見逃しストライクを獲得しやすく、内角では高いスイング率により凡打が発生しやすいためであり、同じ失点抑止力でも外角と内角では特性がやや異なる。

一方、左右不一致時はPV/100の内訳もほぼ左右対称となっており、前述のような特性の違いが見られない少し興味深い結果となった。(スイング率分布もほぼ左右対称。)

Table.1 PV/100の内訳
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Fig.3 ストレートのスイング率分布

球速の影響

150km/h以上と150km/h未満でデータを分割し、PV/100を算出した。その結果をFig.4、Table.2に示す。外角側は差異がほとんどみられなかった一方で、内角側は速球のPVが高くなっている。投球高さ別のPV分布では1.5点ほどの上昇が見られたが、今回は0.5点程度であり、影響はそれほど大きくないようである。

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Fig.4 ストレートの投球コースと球速

打者の長打力の影響

長距離バッターに対して内角攻めする場面が近年多くなっている。ISO.180以上(かつ100打席以上)を長距離打者としてPV/100分布を算出し、実際どれほど効果があったのか調べてみた。

長距離打者の内角側のPV値は2.0に対し、外角は1.6であり、内角側の方がわずかに失点抑止に有利に働いていたようである。なお、長距離打者以外の打者のPV値は外角>内角であり、逆の傾向を示している。Fig.6はPV/100のうち、2・3塁打と本塁打得点のみを抜き出したときの分布図である。内角と外角のPV値に大きな違いはなく、「内角は長打リスクがある」というイメージに反する結果となっている。物理的な視点から考えれば体に近い方が打球飛距離を伸ばしやすいはずなので、そのほかの要素も大きく影響していることが想像される。

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Fig.5 ストレート投球左右コースと打者タイプ

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Fig.6 ストレートの投球コースと長打得点

スライダー

リーグ全体

ストレートと同様、ゾーン内ではV字型の分布を示しているが、左右対称ではなく外角側が高いPV値を示している。ひとつ興味深い点として、「左右一致時」と「左右不一致時」でPV分布がほとんど変わらない点である。Fig.8は空振り率(SwStr%)をコース別に算出した結果であるが、投打の利き手によってはっきりとした真逆の傾向を示している。これほど空振り率に違いが出ているにもかかわらず、失点抑止にはほとんど影響しない少し意外な結果となった。

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Fig.7 スライダーの投球コースとPV/100

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Fig.8 スライダーの投球コースと空振り率


フォーク

リーグ全体

ストレートやスライダーと異なり、ゾーン内のPV値は右肩上がりに上昇するような分布を示している。「左右一致時」は内角側にむかって右肩上がりに上昇し、「左右不一致時」は外角側にむかって上昇している。スイング率分布(Fig.10)をみるとFig.9のPV分布と概ね対応しており、スイング率の高さが高いPV値を生んでいることがわかる。

「左右一致時の内角側」と「左右不一致時の外角側」というのは投手のARM側(シュート方向)に相当する。あくまで想像だが、ARM側にリリースされるフォークボールは変化量やキレなどの球質が高くなりやすいため、打者は手を出しやすく良い結果を生んでるのではないかと考える。

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Fig.9 フォークの投球コースとPV/100

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Fig.10 フォークの投球コースとスイング率

まとめ

以上の結果をまとめると、

・ストレート

内角と外角の失点抑止力はほぼ同等であるが、長距離打者の場合は内角側がわずかに有利。球速が高いほど内角の有効性は増す。

・スライダー

投打の利き手にかかわらず、外角側が高い失点抑止力を持つ。

・フォーク

投手のARM側のコースはスイング率が高く、高い失点抑止力に繋がっている。

 

あとがき

もう少し深堀した分析も行いたかったが、サンプル数を確保できず、ずいぶんとあっさりした内容になってしまったことをご容赦いただきたい。今後もデータを蓄積し、サンプルが確保できれば内容を追加していくかもしれません。

*1:100球あたりのPV値