救援投手は先発投手と異なり、ゲームの戦況によって自由に投手を起用できる"采配"がひとつの 特徴となっている。
本記事では、抑え投手の采配によりもたらされる効果を検証するため、野球シミュレータを用いて采配を再現し、勝率の変動を確認した。
シミュレータについて
今回の分析にあたり、シミュレータを1から自作した。作成方法はこちらのサイトで丁寧に解説されているので省略する。
ランナー遷移確率は2016-2019年NPB公式戦の試合経過データから算出している。
NPBの平均的な打者9人を並べた打線でシミュレートしたところ、1試合の平均得点が4.07点と得られ、実際の2014-2019年のNPBの1試合平均得点は4.07点だったので、シミュレータはある程度機能しているものとして判断する。
救援采配の再現について
まず、全選手が一様に平均的な能力を持った(*1)チームAとチームBを想定し、1シーズン対戦させる。この時点では実力は互角なので、当然勝率は50%になる。
ここでチームAに奪三振100%の抑え投手を加入させ、「9回に同点または3点以内でリード」のとき、必ず起用させるという条件でシミュレーションを行った。するとチームAの勝率は53.8%に上昇した。年間勝利数に換算すると約5.5勝分の利得となる。なお、このときの抑え投手の年間登板数は約56試合だった。
ところで、チームAは奪三振100%の強力助っ人投手を抱えているので、AとBには戦力差がある。これだけでは采配による純粋な効果は確認できない。
そこで、チームBにも同様の助っ人投手を加入させ、戦力差を補正した。またチームBには、この助っ人投手を戦況に関係なくランダムに最終回に登板させ、一切の采配を禁じた。(*2)
この条件でシミュレーションを行うと、チームAの勝率は52.2%となり、勝利数に置き換えると3.2勝となった。これを采配により得られた利得として考える。
同様の計算を " 助っ人投手を9回同点または n点リードで登板させた場合" について行った計算結果をFig.1に示す。実線が戦力差を補正する前のカーブで、点線が戦力差を補正した後のカーブである。補正後のカーブをみると、1点リード以降はほぼ横ばいとなっており、采配による利得はほとんど変わらないことを示唆している。
まとめ
シミュレータを活用した抑え采配の利得の定量化を試み、以下の結果が得られた。
・ 抑えの采配による利得は”1点以内のリード”で大きく得られるが、
それ以上のリードでは采配利得は小さくなる。
・ 抑えの采配利得は最大で3勝(貯金6個分)程度である。
今回のシミュレーションでは両チームの抑え以外の実力が完全に互角、抑え投手の奪三振が100%という極端なケースでの検証ではあるが、それを加味しても貯金6個分は大きな数字であり、抑えの采配は必要と言えそうだ。しかし、2点以上のリードでの登板では采配利得が小さく、登板過多を考えるとあまり望ましくないものと思われる。
*1:2019年のNPB平均を使用する。
*2:この戦力差はシミュレーションを用いずとも机上で計算できる。平均的なリリーフ投手の失点率は3.77なので、助っ人投手をランダムに1イニング登板させたときに得られる平均的な利得は 3.77 ÷ 9 = 0.42点である。年間登板数が56登板であれば年間利得は 0.42 × 56 = 23.5 点 と算出され、これは約2.3勝分に相当する。したがって、チームAとチームBの純粋な戦力差は約2.3勝と推算できる。