”もし野球のルールが4アウトチェンジだったら”
そんなふとした疑問から色々と考察してみた。
今回、野球シミュレータを用いて4アウトチェンジを再現し、得点環境の変化を確認した。*1 打者は2014-2019年のNPBの平均的な打者を用いた。
シミュレーションの結果をTable.1に示す。
3アウトルールから4アウトルールに変えたことで、1試合あたりの得点が6.50点に増加した。
4アウトルールでは、1試合のアウト数は従来の27アウトよりも多い36アウトであり、試合終了までより多くの打席を要するため、この得点増加は当然の結果である。実際、1試合の打席数は38から51打席に増加している。
打席数の影響を排除するため、1打席あたりの得点でみてみる。打者の能力(出塁率、長打率、走力など)が同じであるにもかかわらず、4アウトルールでは打席あたりの得点が0.02ポイント上昇する結果となった。
同様の計算を "n アウトルール" で行い、プロットした結果をFig.1に示す。
n数が大きくなるほど、打席あたりの得点が増加していることがわかる。繰り返しになるが、このとき打者の能力は一切変えていない。
ここで、得点の構造*2について考えてみる。1試合当たりの得点は分解していくと以下の要素で構成されていることがわかる。
ピンク字の項は1試合あたりの打席数に該当する。式からわかるように、この項はシミュレーションせずともnと出塁率のみから簡単に計算することができる。出塁率.326(2014-2019年NPB平均出塁率)を当てはめると3アウトルールで40打席、4アウトルールで53打席と、先ほどのシミュレーション結果とほぼ一致している。*3
一方、青字部分である得点/打席は 生還率(1出塁につき何得点あげたか)と 出塁率 の積で表せることがわかる。今回、打者の出塁率は一定なので、得点/打席は生還率の関数で表現される。先ほどのFig.1のグラフはFig.2のように生還率で書き換えることができる。
3アウトルールではランナーの約30%がホームに生還しているが、20アウトルールでは約70%が生還している。このように打者の能力が一定であるにもかかわらず、生還率が変動するのは1イニング内のイベント集中率が異なるためである。
野球において、ランナーの生還しやすさは打者の長打力やランナーの走力のほかに、同じイニングにいかに集中的にアウト以外のイベント(安打、四球、エラーなど)が起こしたかによって決まる。n数を増やしたことで、1イニングの打席機会が増え、よりイベント集中効果を得やすくなった結果、生還率が上昇したと考えられる。
Fig.2を下のように書き換えるとさらに理解しやすくなるかもしれない。
3アウトルールでは1イニング内のアウト以外の打席数は1.2であり、これがランナー生還率30%に繋がっている。一方、20アウトルールでは8打席もアウト以外のイベントが集中的に発生しており、その結果ランナー生還率は70%まで大きく上昇している。
以上の調査から、4アウトルールへの変更に伴う得点増加は、"1試合あたりの打席数の増加" と ”イベント集中効果に起因するランナー生還率の上昇” の2つの効果によってもたらされていることがわかり、シミュレーションを通してその効果の大きさを定量的に表現することができた。