ぼーの の日記

セイバーメトリクスとか

【PbyP解析】二塁手GG賞 2021

今回は二塁手編です。遊撃手同様、評価項目は「守備範囲」、「併殺奪取」、「失策抑止」です。ノミネート選手は各球団の最も守備イニングが多かった選手です。

守備範囲評価(RngR)

遊撃手同様、守備責任打球数とそのアウト獲得率から評価を行う。二塁手の守備責任打球は以下の通り。

二塁手の守備責任打球
二ゴロアウト、二内野安打、一二塁間ヒットゴロ、二遊間ヒットゴロ、二ゴロエラー

Table.1に二塁手のリーグ全体の守備責任打球とそのアウト獲得率を示す。アウト%は74.0%前後で2019年からほとんど変わっていない。この3年間、二塁手レギュラーの顔ぶれがほとんど変わっていない影響が大きいと思われる。

Table.1 二塁手全体の守備責任打球とアウト%
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続いて各選手のアウト%と守備範囲得点(RngR)をTable.2に示す。トップはRngR+4.7を記録した中村となった。アウト%は他のトップ選手と比べるとやや劣るが、守備機会の多さにより得点を稼いでいる。阿部、外崎は守備機会こそ少なかったが、高いアウト%で高得点を記録している。

今年から本格的にセカンドにコンバートした安達は不慣れながらも平均以上の数字を残している。打撃で素晴らしい活躍をみせた牧は、RngRでは平均レベルと大健闘した。菊池は19年 +0.6 、20年 +1.0 と微プラスをキープしていたが、ついにマイナスに。今年で31歳を迎え、加齢の影響を無視できない年齢に差し掛かっている。

Table.2 2021年二塁手 守備範囲得点
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RngRを「二遊間方向」と「一二塁間方向」に分解した結果をTable.3に示す。菊池は二遊間方向に強く、山田、浅村は一二塁間方向に強いという傾向は例年通り。中村はこれまで一二塁間を得意としてきた*1が、今年は二遊間方向で多くのアウトを獲得しており、傾向が大きく変わっている。ポジショニングや守備の意識に変化があったと想像する。

Table.3 打球方向別RngR

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~おまけ:菊池のRngR低下について~

菊池のRngRは2014年の+11.6をピークに年々減少し、今年はマイナスを記録した。この主な要因として、加齢や勤続疲労の影響が大きいと思われるが、これだけで片づけてしまっては味気ないので、もう少し詳しく見ていく。

まず前提として、RngRは守備責任打球に対するアウト獲得率をもとにした評価であり、「守備でどれだけ多くのアウトを獲得したか」のみに着目した指標である。守備の目的はアウトを獲得して失点を防ぐことなので、合理的な指標であると言えよう。

守備でより多くのアウトを獲得するための最も効率の良い方法は「打球分布」と「守備範囲」を一致させることである。(Fig.1)これはポジショニング等を調整することで誰でもできることである。これらを踏まえたうえで考察を進める。

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Fig.1 打球分布と守備範囲(誇張したイメージ)

 

まずは打球分布について。こちらの記事の図2-1に示されるように一二塁間方向の打球が多く、打球分布はやや一塁寄りに偏っていることがわかる。というのも二遊間方向にはピッチャーが守っており、緩い打球の多くを処理するため、二塁ベース付近に飛んでくる打球が少ない。ピッチャーを抜けて飛んできた打球は基本的に速く難しい打球なので、二塁手にとってはコストパフォーマンスの悪いエリアとなっている。

続いて、菊池の守備範囲(守備スタイル)について。菊池はやや二遊間よりにポジションを取っており、その強い肩と正確なスローイングで二遊間の深い打球を処理し、一二塁間の打球は後方に下がりながらしぶとく追うプレースタイルである。*2

やや一塁寄りの打球分布に対し、菊池はやや二遊間寄りのポジションをとっており、この時点で両者に「ズレ」が生じていることがわかる。それでもこれまで高いRngRを記録できていたのは、驚異的な守備範囲の広さがあったからである。近年は加齢とともにその守備範囲が縮小し、もともと潜在していた「打球分布と守備範囲のズレ」が顕著に現れるようなり、マイナスに転じたと筆者は想像する(Fig.2)。

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Fig.2 菊池の守備範囲と打球分布(誇張したイメージ)

この裏付けとして、菊池の打球方向別のRngRをTable.5に示す。二遊間方向のRngRは毎年プラスを記録しているのに対し、一二塁間方向のRngRは年々低下しており、一二塁方向の守備範囲が縮小していることがうかがえる。打球分布の傾向から、一二塁間の打球を処理できなくなると大きなマイナスが発生しやすいため、二遊間方向との収支バランスが保てなくなる。

守備範囲が縮小したと言っても、まだまだ平均以上のものをもっていると筆者は信じており、守備スタイルを見直して分布のズレを解消できれば数字は上向くのではないかと考えている。

Table.5 菊池の打球方向別RngR
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併殺奪取評価(DPR)

DPRの計算については、遊撃手と同様。Table.6に二塁手のリーグ全体の併殺機会と併殺成功率を示す。併殺成功率は2020年に増加しており、前述のアウト%とは異なる傾向をみせている。(増加の要因としては遊撃手レギュラーの入れ替わりなどが考えられるが、よくわかっていない。)

Table.6 二塁手のリーグ併殺成功率
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各選手の併殺成功率と併殺奪取得点(DPR)をTable.7に、DPRを「併殺起点時」と「併殺中継時」に分解した結果をTable.8に示す。

渡邉は19年 -1.9 、20年 -0.8 と併殺プレーに苦しんでいたが今年は大きく数字を伸ばし一気にトップに立った。役割別にみると併殺起点での得点が多く、昨年の -0.8 から大きく改善されている。牧も高いDPRを記録した。併殺パートナーである大和は例年マイナスを記録していることを考えると大きな働きであったといえるだろう。

Table.7 2021年二塁手 併殺奪取評価

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Table.8 役割別DPR

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失策抑止評価(Err)

続いて、併殺抑止評価。今回も失策内容別に集計した。リーグ全体の数値をTable.9に示す。失策率は2.0%で遊撃手よりもやや少ない数字となっている。内容別に見ると悪送球の割合が遊撃手よりもやや少ない。

Table.9 二塁手リーグ失策率

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Table.10に各選手の失策抑止得点(Err)とその内訳を示す。トップの+2.4をマークした阿部は、少ない出場ではあったが唯一無失策でシーズンを終えている。安達は、ショートでは上位の常連だが、セカンドでは不慣れな部分もあったせいか最下位に沈んでいる。

Table.10 2021年二塁手 失策抑止評価
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総合評価(TZR)

総合評価をTable.11に示す。トップは+6.5で同率となった阿部、外崎。どちらも規定守備イニングを下回っており、限られた守備機会で優秀な成績を収めた。外崎は、二塁手として本格的にプレーしはじめた2019年から毎年素晴らしい守備成績を残している(2019年UZR:+5.9、2020年UZR:+12.6)。ルーキー牧はすべての項目で平均レベルの働きを見せ、無難に守備をこなした。OPS.900弱の二塁手が無難に守備をこなせるのは大きなアドバンテージと言っていいだろう。

Table.11 2021年二塁手 守備総合評価
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*1:2019年 一二塁間方向:+6.7、二遊間方向:+1.8、2020年 一二塁間方向:+3.3、二遊間方向:-2.2

*2:https://1point02.jp/op/gnav/sp201701/sp1701_07.html